ふたりいてひとりの孤独夜の秋 斉山 満智
ふたりいてひとりの孤独夜の秋 斉山 満智
『この一句』
「夜の秋」は晩夏の季語。炎暑の夏も8月に入ると、日が落ちた後は少し涼しく感じたりして、ふと秋の気配を感じる、というような心情的な季語だ。
掲句の「ふたり」は多分、男と女。なんだか冷めてしまったようだ。この句を選んだ一人、的中さんは「それにしても、深い孤独感ですね」と驚く。一方、「人生にはこういうことはよくあるよなあ、と思っていただきました。『夜の秋』にふさわしい」と可升さん。作者は、「人と一緒にいて寂しくないはずなのに、返って寂しさを感じる瞬間が『夜の秋』に通じるのでは」と言う。
この作者には心情を表した作品が多い。当欄に登場した句を拾っても「彼岸過ぐ心は冬に置いたまま」、「誰からも音沙汰なき日梅雨に入る」、「よしよしと自分なだめて春を越す」などなど枚挙に暇がない。読者は、その心の有りように共感するかどうかなのだが、呈示の仕方がいかようにも取れる絶妙な言い回しなので、つい気になるし、捨ててはおけない。句会でも話題になる句が多い。
巣籠もり生活が続き、仲違いする男女が増えていると聞く。果たしてこの「ふたり」、その後どうなったのだろうか。
(双 20.08.20.)