的中音響きわたりて夜の秋 池内 的中
的中音響きわたりて夜の秋 池内 的中
『季のことば』
選句表を一読、弓道を嗜む人の作と分かる句だ。弓道には縁のない筆者にも、矢が的に当たった音が何にも代えがたく快いのだろうと、容易に句意を察した。「正射的中」とこの世界では教えられるという。正しく射られた矢しか的に当たらないということらしい。弓道に限らず武道はなべて姿勢を問う。きりりと立つ、あるいは正座して矢を射る姿は見る者を粛然とさせる。また、正月の京都三十三間堂での通し矢は、ことに華やかである。振袖の長い袖を白襷で括り上げた女子学生が、一列に並んで次々と立射する光景は圧巻だ。このような映像シーンが自然に浮かぶ。
「夜の秋」という難しい季語に対し、この句は文字通り正鵠を得ていると思っていただいた。夜の秋は合評会の場でも示されたように、秋でもなく夏のちょっとだけ秋めいた夜の気分を詠むのが本意。が、ともすれば秋そのものの句になりがちだ。この句は暑さも和らいできた夜稽古で的中音が響く情景である。そこに夜の秋を感じさせる。作者の俳号である「的中」も呼応しているようだ。
ところで、この句は「的中音」の読みとして「てきちゅうね」とルビが振られていた。これが弓道で慣用の言い方ならば仕方がないが、さもなければ六音になっても辞書通り「てきちゅうおん」とすべきだろうとの指摘もあった。
(葉 20.08.18.)