老犬のゆたかないびき夜の秋 金田 青水
老犬のゆたかないびき夜の秋 金田 青水
『合評会から』(番町喜楽会)
満智 「ゆたかないびき」という表現が老犬に対する愛情を感じさせます。
水兎 「ゆたかな」が良いですね。安心して眠る動物を見るだけで、幸せな気分になります。
斗詩子 飼い主に大事に可愛がられて安心しきって眠っているワンちゃんの様子。「ゆたかないびき」という表現が面白い。
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筆者もこの句を採ったが、まず「夜の秋」の季語に「老犬のゆたかないびき」が取合せられていることに驚いた。「夜の秋」は、秋の気配がして、少し肌寒くなった頃の季語で、やはりどちらかというと静寂を感じさせるものと取合せるのが普通ではないだろうか。それが「いびき」、しかも「ゆたかないびき」である。だが、真っ暗な部屋の中でこのいびきの音だけが聞こえてくるとすれば、それはやはり「夜の秋」にふさわしいもののように思われた。
この句を採られた三人の女性は、いずれも老犬に対する作者の愛情や、老犬の安心に言及されているが、筆者には老犬の姿は見えず、ただ「いびき」の音だけが聞こえてきた。筆者の読みはおそらく片手落ちだろう。しかし、闇の中から聞こえる「ゆたかないびき」の音の不気味さと「夜の秋」が共鳴することで、格調のある一句になったように思えた。
(可 20.08.16.)