波静か夕日眩しき夏座敷 加藤 明生
波静か夕日眩しき夏座敷 加藤 明生
『季のことば』
「夏座敷」とは、襖も障子も取り払い、できるだけ開けっぴろげに、風通しを良くして、軒には風鈴や釣り忍などを下げ、涼しさを感じさせようとした座敷である。この季語を用いて俳句を詠む場合にはやはり誰しも、そうした趣を踏まえて、涼しげな感じを出そうとする。
しかし、この句は夕日が照り輝く夏座敷というのだから、恐らく西向きあるいは南西に開けた部屋なのであろう。房総半島の東京湾岸、真鶴半島、伊豆西海岸など、地形の関係からどうしてもそうした夏座敷が出来てしまうことがある。かなり暑そうである。そこがかえって面白い。強い日射しがまばゆいのに、妙に静かなのだ。
「波静か」とあるから、夕凪の頃合いか。海岸地帯では日中は海からの風が吹き、夜になると山側から吹き降ろしてくる。海風が陸風に切り変わる時間帯は無風状態となる。これが夕凪。夕日が沈む頃から暗くなるまでの間で、実に暑い。
昔、湯河原の海水浴場の知人の別荘に時折出かけたが、この句のような情景に何度か遭遇した。暑いことは暑いが、夕日に照らされてチカチカ光る小波が印象的で、やがて太陽が没し暗くなると、さあっと涼風が吹いて来るのだった。
(水 20.08.11.)