黒南風や居間の電灯つけしまま 田中 白山
黒南風や居間の電灯つけしまま 田中 白山
『季のことば』
「黒南風」とは元は西日本の漁師言葉で、湿気を含んだ黒雲を運んで来る南風。大雨を降らせたり、時には船を引っ繰り返してしまうほどの暴風になることもある。一般の会話にはあまり出て来ない言葉だが、その響きと字面が異様な感じを与え、それに引き付けられた俳人たちが梅雨期の季語として取り入れた。
これに対して「白南風(しろはえ)」という季語がある。これは梅雨明けの明るく爽やかな南風を言う。対を為す季語はいくつもあるが、これほど見た目も印象も鮮やかな対比を示す組み合わせは珍しい。両方とも何とか物にしたいと取り組む俳人も多い。
この句は「電灯つけしまま」と、身の回りのちょっとした変化で梅雨期の陰鬱さを描き出したのがとてもいい。点け放しの電灯によって、あたりの暗さがより一層際立つ。
ところで、こうしたさりげない詠み方は実はなかなか難しい。俳句に慣れ親しむにつれ、ついつい強い印象を与える文字や言葉をこねくり回したくなる。それを抑えて、「見たまま」に戻ることが大切であることを教えてくれている。
(水 20.07.13.)