一駅を涼暮月の帰り道      星川 水兎

一駅を涼暮月の帰り道      星川 水兎 『季のことば』  選句表でこの句を目にした時、「涼暮月」の読みも意味も分からなかった。手元の歳時記に見当たらず、辞書にあたると「(すずくれづき)陰暦六月の別称。涼しい暮れ方の月の意」(明鏡国語辞典)とある。意味が分かって句を読むと、なかなかに趣が深い。  昼間は蒸し暑かった夏の一日も、日暮れになると涼しい風が感じられ、ふと見上げると月が浮かんでいる。涼しげな月明かりに誘われ、いつもは電車に乗る一駅を歩いて帰ろう。そんな場面が浮かんできて、一服の清涼剤を得た気分になった。  陰暦六月は万葉の昔から様々な異称で呼ばれてきた。最も知られているのは水無月(みなづき)だが、ほかに「常夏月」、「風待月」、「水張月」、「鳴神月」、「松風月」、「蝉羽月」などがある。雨や風など気候の変化が大きく、作物の成長を左右するこの季節の特徴をよく捉えている。気温や天気の変化に目を凝らしてきた先祖たちの知見が凝縮されているように思う。  歳時記を何冊か見たが、水無月の傍題として常夏月や風待月はあっても、涼暮月は探せなかった。この風雅な季語を見つけてきた作者の努力だけでも、十分に票を投じる価値があると思う。 (迷 20.07.01.)

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