枕辺の欧州ニュース短き夜 水口 弥生
枕辺の欧州ニュース短き夜 水口 弥生
『この一句』
「一体何を言おうとしている句なのか分からない」という疑問が発せられるかも知れない。しかし、新聞の国際面に熱心に目を通す人や、「時差」というものに敏感な旅行好きの人には、とても面白い句だと受け取られるに違いない。
この句を見て、そうだ、「短夜」と「欧州ニュース」はまさにぴたり合わさるなあと感じ入った。しかし、この飛び離れた二つを合わせて、俳句に詠もうとする人が居ようなどとは思いもしなかったので、本当にびっくりした。
作者は眠りが浅い質なのだろう。ちょっと寝ては覚めるの繰り返しで、夏の夜はすぐに白々明けとなる。たぶん一晩中「ラジオ深夜便」を音量を絞って付けっぱなしにしているのではないか。タラララ、タン、タターン・・という、あの眠気を誘うような、時には目を醒まさせるような合いの手メロディが流れて次のテーマに移って行く。そして午前4時、5時にはニュースが流れる。
日本の午前4時、欧州大陸は夜9時、イギリスは夜8時。その日一日の出来事を集約して報道する時間だ。この作者は欧州でのあれやこれやを日本で真っ先に知る一人なのだ。「ドイツの女首相、偉いわねえ、頑張ってるのねえ」などとつぶやきながら、またまどろむ。実にユニークな句材を取り上げたものである。
(水 20.07.08.)