夜濯ぎや上は銀座の美人ママ 田中 白山
夜濯ぎや上は銀座の美人ママ 田中 白山
『季のことば』
夜濯(よすすぎ)とは夜にする洗濯のこと。江戸の庶民は持っている着物の数が少ないため、汗をかく夏は肌着類を夜風が立ってから洗い、翌朝には乾いたものを着た。夜の洗濯は昭和の初めまで夏場に盛んに行われてきたので夏の季語となっている。(水牛歳時記などによる)
洗濯機が普及した現代は、夜濯の必要性も季節性も薄れてしまっている。句会ではこの兼題に対し、夜に洗濯した経験やその事情を詠んだ句が多く出された。掲句はその夜濯に銀座のママを登場させ、目を引いた。
若い男の住むアパートの上の階には、銀座のママとおぼしき美人が住んでいる。夜中に聞こえる洗濯機の音から、ママの暮らしぶりを想像する。そんなニヤリとする場面を思い描いて票をいれたが、他に選んだ人はいなかった。考えてみれば、銀座のママが洗濯機の音が響くような安アパートに住んでいるはずがない。状況が作為的すぎて、創作句と見られたのであろう。
作者に聞くと50年以上前の若き日の実体験をもとにした句という。確かに昭和三十年代であれば、銀座のママが同じアパートに住んでいても不思議ではない。追憶句とすれば、美人であったかどうかも含め時の経過による脚色がありそうだ。
(迷 20.07.20.)