母の名と同じ店ある梅雨晴れ間 大沢 反平
母の名と同じ店ある梅雨晴れ間 大沢 反平
『季のことば』
この稿を書いている六月十七日の南関東は、まさしく「梅雨晴間」である。多少の雲はあるものの青空で湿度が低い。気持ちのいいこと申し分ない。いつの日か作者は久々の好天に誘われ、街歩きに出かけたにちがいない。いつものコースをちょっと外れて、ふと見ると店の看板か扉の表示が目に入った。なんと、母親の名前と同じ店名ではないか。八十を越えた作者のご母堂だから、もちろん流行りのキラキラネームではなく昔風の名前だろう。まず何という名前か何の店か、読み手はひとしく気になる。興味をかき立てる「母の名と同じ店」で評者もこの句に惹かれた。
そのうえ梅雨晴れのある日の出来事である。ありし日の母親を思い出した作者は、小さな幸福感を味わった。また、読み手にもちょっぴり爽やかな気分をお裾分けしてくれた。今年もすでに猛暑の兆しがみえはじめているが、盛夏まであと幾日か。梅雨の季語は「梅雨寒」「梅雨出水」「梅雨闇」など鬱陶しいものが大半だが、「梅雨の明」は安堵感を、「梅雨の月」と「梅雨晴間」は梅雨期のコーヒーブレークを感じさせる季語だ。
(葉 20.06.30.)