手の甲の黒子の増えし蕨餅 中嶋 阿猿
手の甲の黒子の増えし蕨餅 中嶋 阿猿
『おかめはちもく』
年を重ねてくると身体のあちこちに老化の証しが出てくる。機能的な衰えは当然日々感じることだが、顔や手足のシミ、黒子にある日気づいて驚く。こんなところに黒子はなかったはずだが、という図である。まあ、そういう年になったということだろう。
作者は最近手の甲に黒子が増えたと感じている。黒子も長年紫外線に当たってきた結果だからしょうがないと言えばしょうがない。しかし女性となれば気にせずにはいられない。心情がよく分かる句である。「蕨餅」と付けたのも色白がややくすんできたことを言いたいのかもしれない。「蕨」は春の季語だが、これを問うわけではない。「蕨餅」は夏の食べ物に合いそうだ。
「黒子の増えし」の「し」について傍目から考えてみる。「し」はつくづく難しい。動詞・助動詞の連用形、助動詞の連体形・已然形、副助詞、形容詞に使われると辞書にある。この句の場合、「増えし」で切っているのだが、蕨餅につながるおそれがある。筆者はいい句と思ったが採らなかった。作者に失礼を詫びつつ言えば、「手の甲の黒子増えたり蕨餅」あたりがいいと思うのである。
(葉 20.06.22.)