荷解けば父の空豆ぎっしりと 岩田 三代
荷解けば父の空豆ぎっしりと 岩田 三代
『この一句』
句意は明快である。故郷を出て都会で暮らしている子供に荷物が届いた。開けてみれば、父親が丹精して育てた空豆が沢山詰まっている。作者は愛媛県の出身で、就職で上京して以来ずっと都会暮らしと聞いている。愛媛は江戸時代から空豆産地で知られ、生産量は全国4位を占める。句はおそらく実体験を詠んだのであろう。
子供や孫に食品や衣類を送るのは女親に多い。最初は父が育てた空豆を母が送ってきたと考えた。しかし母親なら空豆だけでなく、他の野菜や果物も入れるのではなかろうか。
「父の空豆ぎっしりと」の中七下五を眺めているうちに、違う場面が浮かんできた。空豆だけを詰め込む一直線の思考は男性的だ。もしかすると自慢の空豆を箱に隙間なく詰めて送ってきたのは父親自身ではないか。作者は鮮やかな緑色を眺め、父の顔や田舎の風景を思い浮かべたに違いない。
「ぎっしりと」の措辞には、そんな武骨な父親を愛おしむ作者の気持ちがこもっている、というのは読みすぎであろうか。
(迷 20.06.17.)