振り向けばだあれも居ない初夏の街 横井定利
振り向けばだあれも居ない初夏の街 横井定利
『この一句』
非常事態宣言の出た街を、コロナ俳句として詠んだのは一目瞭然である。いまや新聞の俳壇も歌壇も、もちろん詩歌専門誌もコロナ禍の吟詠が真っ盛り。自粛生活の中、仕事でやむなく外に出ざるを得ない人々のほかは、自宅に籠もるのが多数派といった状況だ。ただ、自粛が倒産の崖っぷちとなる居酒屋、飲食店などは、万全のウイルス対策を講じたうえ店を開けるのを非難できないと筆者は考える。“自粛警察”とかいう嫌な風潮は排したい。
それはさておき、この句である。コロナ関連の難しいカタカナ用語や、自粛、巣ごもり、蟄居などの語も使わずに社会の不気味さを表した。俳句では上五に「なになにすれば」と条件を付けるのはよろしくないと教えられてきた。が、この「振り向けば」は句の構成から必要条件だと思う。作者は通院だろうか、夏が来た街中を歩いており後ろの静かさに、ふと振り返ってみたが当然誰もいない。近未来映画のような雰囲気が句の全体をおおっている。ことに効果を出しているのが「だあれも」と「あ」を加えたところだ。不気味さをすこしだけ減殺しているようにみえる。
(葉 20.06.04.)