川の香を運ぶ大鮎宅配便 池内 的中
川の香を運ぶ大鮎宅配便 池内 的中
『この一句』
番町喜楽会の5月例会に出された句である。「川の香を運ぶ」の措辞に惹かれて点を入れた。鮎は春先に川を遡上、苔を食べて成長し夏に旬を迎える年魚。スイカやキュウリのような独特の香りがあり、香魚とも呼ばれる。食べた餌の種類によって香りに違いが出るとされ、育った川の環境(香り)を身に蔵しているといえる。
掲句は産地から取り寄せた鮎を詠んだのであろう。コロナ籠りの自宅に広がる天然の香り。鮎の育った清流が想起され、滅入りがちな気分も吹き飛ぶようだ。
ここまで書いて、ふと鮎釣りの解禁は6月1日ではないかと思い至った。しかも初夏の鮎は小ぶりで、大鮎の表現も気になる。
調べてみると、近年流通している鮎の7割は養殖物で、5月初めから20センチ級のサイズが出荷されている。養殖物は香りがしないのが普通だが、餌の工夫や湧水の利用など養殖技術が進み、産地によっては天然物と変わらない香りがあり、味も劣らないという。鮎の旬には少し早いが、養殖魚と宅配便を活用し、籠り家に初夏を呼び込んだ作者に拍手したい。
(迷 20.06.02.)