妻の乗る脚立を支へ立夏かな 玉田春陽子
妻の乗る脚立を支へ立夏かな 玉田春陽子
「合評会から」
鷹洋 夏のグリーン・カーテン張りは最早妻の仕事。退職後の男は見上げるだけで、本当に頼りにならない。自嘲的でペーソスあり。
双歩 いったい、この奥さんは何をしているのでしょうか?高い所の物を取るだけなら、夫がやればいいのですから。さらに立夏とどう関係しているのでしょうか?謎多き句です。
ゆり 夏を迎える作業をされているのでしょう。力仕事だと逆のはずなので、カーテンや簾を掛け替えるとかそんな情景を思い浮かべました。
而云 立夏の陽光に妻の活躍。婦唱夫随はいつものことながら。
* * *
脚立の上に妻が上り、夫が下で脚立を支える。婦唱夫随の風景が実にはっきりと浮び上がって来るではないか。奥さんが物置から脚立を持ち出してきたのを見て、ご主人は「そうか、この時期が来たか」と結婚当初のことを思い出す。新妻が「日よけ、どうしましょう」と言い出したのだ。「日よけ?」。あの時、夫はきょとんとするのみであった。
以来、夫は毎年、下で脚立を支えるだけ。下っ腹が出て来た昨今、脚立における下克上の夢など、とっくに消え去っている。「この日覆、まだ二三年、大丈夫ね」。夫は「うん、うん、そうだね」と応ずるのみだ。陽射しまばゆい立夏の朝。「晩酌は家内の好きな赤ワインで行くか」などと夫は考えている。
(恂 20.05.27.)