糊こはき浴衣六方踏むやうに 大澤 水牛
糊こはき浴衣六方踏むやうに 大澤 水牛
『この一句』
まず「糊こはき」で始まる上五に感心した。「浴衣」という兼題が出された時、筆者もあのバリバリした感じを詠みたいと思ったが、うまい言葉が見つからずに断念した。この句を読んで、なるほど「糊こはき」と言えば良いのかと納得した。こういう言葉はなかなかおいそれとは出てこない。
つぎは「六方踏む」の措辞。六方にもいくつか種類があるようだが、我々がすぐに思い浮かべるのは、歌舞伎の「勧進帳」で弁慶が花道を去る時の「飛び六方」である。あまりにも糊がきつく効いているので、まるで六方を踏むようにしか身動きがとれないということだろう。大袈裟な表現ではあるが、おかげでとてもユーモラスな句になった。宿の浴衣を詠んだととる人もいたが、筆者はこれは、あの洗濯糊なるもので仕上げた浴衣、すなわち昔懐かしい家庭の光景だろうと思った。プロの業者が洗濯する宿の浴衣は、六方を踏むにはソフトで上品すぎる気がする。
旧仮名を使っているのも、この句の魅力のひとつだと思う。この句を新仮名づかいで表記すると「糊こわき浴衣六方踏むように」となる。「こわき」と「こはき」ではずいぶん印象が違う気がするのは、筆者だけだろうか?
(可 20.05.17.)