人気なきおとぎの国に春の雨 徳永 木葉
人気なきおとぎの国に春の雨 徳永 木葉
『この一句』
新型コロナウイルス騒動で、双牛舎加盟の句会は3月、4月は集まっての会をすべて自粛し、メール句会となった。人類にとって第二次世界大戦後では最大の厄災と言われるコロナ感染。メール句会にも関連する句が多数寄せられている。
掲句もそのひとつ。「おとぎの国」とは浦安市の東京ディズニーランドをさしており、2月末からの営業自粛で人影のない情景を詠む。いつもは大勢の客が来場し、ミッキーや白雪姫などのキャラクターと触れ合い、アトラクションを楽しんでいる。広大な敷地に点在する施設はどれも夢と冒険心に溢れており、まさに日常と隔絶された「おとぎの国」といえる。
賑わいの印象が強いだけに、誰もいない園内の光景は淋しさが際立つ。折から降りかかる春の雨が閉鎖された施設を濡らし、一段ともの悲しさが募る。
コロナ禍を直接詠むのではなく、無人となったおとぎの国によって、感染症の怖さ・不気味さをイメージさせる。メルヘン調の柔らかい表現ながら、しっかりした時事句である。
(迷 20.04.21.)