深みより浮かび来し鯉暖かし 鈴木 雀九
深みより浮かび来し鯉暖かし 鈴木 雀九
『合評会から』(日経俳句会)
木葉 冷たい池の底に沈んでいた鯉が、気温の上昇とともに水面近くまで浮かんできた。水中の生き物である鯉の動静によって「暖か」の季語をうまく表現した。
双歩 冬の間、底にじっとしていた鯉が水が温んできたので水面に顔を出したという、何となく見たことがあるような光景が「あたたか」を感じる。
睦子 水も温んで、冬眠から目覚め、ゆったりと喜びを確かめているような感じが伝わってきます。
昌魚 多分赤い色の鯉なのでしょう。何となくほっとした感じが伺えます。
* * *
作者によると、昼食後江戸川橋から神田川をのぞいての句。一㍍もある緋鯉で、もう顔なじみなのだという。深みにじっとしていたのが陽気に誘われて浮かび上がって来たのだ。「おう,出て来たか」なんてつぶやいている作者の姿が見えるようだ。見たままをすっと詠む。これぞ俳句作りの本道であり、お手本を見せてくれた。
(水 20.04.20.)