朝日射し大願成就猫の恋   後藤 尚弘

朝日射し大願成就猫の恋   後藤 尚弘 『季のことば』  「猫の恋」は早春の季語。牝を得ようと猛り狂う牡が唸り声をあげ一晩中徘徊する。近ごろは地球温暖化の影響か、野良猫にも栄養が行き渡ったせいか、猫の恋の季節が晩秋から晩春まで半年近く続くようになった。それでもまあ山場は一月から四月初め。というわけで三春の季語とするのがいいかもしれない。  わずか十七音字に、詩的感興を盛り込みつつ、句意を分かり易く伝えるのが俳句の難しさ。この難事に取り組む作り手の姿勢には三つの型がある。一つは「分かってくれる人が分かってくれればいいんだ」という意固地派で、謎々か暗号のような句を作る。第二は、「取り合わせ」とか「二物衝撃」という、二つの一見無関係の事物を並置し、その響き合い、繋がり具合に含蓄をはらませる詠み方で、これも時々独りよがりの取り合わせ句が出て来る。第三は、五・七・五の枠内で何とかして分かり易い句を作ろうと苦労する実直な保守派。  この句、第三の型と言えようか。詠み方としては王道なのだが、やはり「朝日の射すころようよう大願成就」と順序を追って述べ「説明調」に陥っている。言葉を入れ換えて「恋猫の大願成就朝ぼらけ」などとするのは如何か。(水)

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