はしきれでマスクを縫ひて暖かし 池村実千代
はしきれでマスクを縫ひて暖かし 池村実千代
『この一句』
マスクは冬の季語だが、今は花粉症対策やインフルエンザ予防もあり、4月くらいまでは使用する人が多い。さらにこの春は新型ウィルス禍で品薄となり、一躍主役に躍り出た生活必需品である。つまり、冬の季感はすでになく、極めて今日的な一般名詞と言える。
そのマスクを甲府市の中学生が、お年玉などで布を購入し手作りしたマスク約600枚を山梨県に寄付した、と先日報じられた。「この一枚が皆様のお役に立ったら嬉しいです!」とのメッセージ付で高齢者施設などに配られたそうだ。掲句を一読してこの話が浮かび、暖かな気持ちになった。
一方、使い捨てマスクをネットオークションで高額で売りさばき、900万円近くを売り上げた県議がいた。咎められると「転売した訳ではないから悪いことはしていない」などと嘯く始末。有事の際にこそ人間性が問われるというが、国政を預かる者や首長の言動も今、試されている。
この春の「暖か」に相応しい一句と思うが、5年後にはこの句は意味不明になるやも知れない。「新型コロナ禍で」とでも前書を付けておくのはどうだろう。
(双 20.04.06.)