通勤のペデストリアンデッキ暖かし 旙山芳之
通勤のペデストリアンデッキ暖かし 旙山芳之
『この一句』
都市住民にとって「ペデストリアンデッキ」は必要欠くべからざる建築物であり、日ごろ何気なく便利に利用しているにもかかわらず、この名前は案外浸透していない。そのせいもあろう、この句も気の毒に句会で埋もれてしまった。
大きな駅やスタジアムに併設されている歩行者専用の高架構造物の呼称である。広い道路を渡るだけが目的の歩道橋と異なり、駅と駅前広場に面した大きないくつもの建物の二階を結ぶ、遊歩道と広場を兼ねた空中回廊。高度経済成長時代の73年(昭和48年)、国鉄柏駅東口に生まれたのが元祖と言われ、役所用語では「歩行者専用嵩上式広場」という。その後、関東近県はもとより全国各地の主要駅前にペデストリアンデッキが続々と生まれた。近ごろはベンチや植え込み、トイレのあるデッキもあり、イベント広場まで備えたものもある。
この句はペデストリアンデッキが結ぶデパートや飲食店を横目に通勤する、まさに今日的情景を詠んで斬新。季節外れの雪が降ろうが北風が吹こうが、ここなら大丈夫。しかし、帰り道は美味そうな匂いに釣られてつい寄り道してしまうのが難点である。
(水 20.04.05.)