酔しれてニンフの誘ひ春の闇 池内 的中
酔しれてニンフの誘ひ春の闇 池内 的中
『この一句』
三月句会がコロナ禍でメール句会になってしまい、作者の弁が聞けなかったのが残念だったが、実になんとも呑気で、うららかで、少し危なっかしい半平太である。「こういう経験は過去、多々ありましたが、楽しい夢はすぐ覚めて現実に引き戻されます」(命水)という句評が寄せられ、善良なる小市民であることが明らかになって、思わず笑い出してしまう。
今やその小市民は「密閉・密集・密接のバーやナイトクラブ、酒場には行かないように」と言われている。「へんっ、アベカワモチにツケマツゲのばばあにそんなこと言われたくねーや」(筆者が言っているのではない。買物に出かけた街中で小耳に挟んだ言葉である)。とにかく、元気な中高年サラリーマンは「自粛、自粛」にうんざり、鬱屈している。
この句は二月下旬の作品。つまり横浜港にコロナ船が入港して大騒ぎになったものの、地上ではまだまだ平安な春の宴が繰り広げられていた頃である。「くよくよ」「鬱々」「いらいら」といった言葉が溢れる今、この句を改めて読むと、「いいなあ」とつぶやいてしまう。わずか二ヵ月前が遠い昔のようだ。
(水 20.04.02.)