虫好きの子らみんな来よ春の野へ 金田青水
虫好きの子らみんな来よ春の野へ 金田青水
『この一句』
この句は明らかに二十四節気の啓蟄が背景にある。「蟄」は虫などが土中に隠れ閉じこもること、「啓」は開く。つまり啓蟄は、冬ごもりをしていた虫が春になって這い出ることだ。実際、散歩をしていると実に様々な虫が飛んだり這ったりしているのに出くわす。それらを狙って鳥も活発に囀るようになる。春は生きとし生けるものすべてが活動を始める季節。
この春は、コロナの猛威であちこちの学校が休校となった。筆者の近所の子も入学式や始業式だけは登校していたが、次の日からは所在なさげに通りでキャッチボールをするなど暇を持て余していた。掲句は、退屈しているに違いないそんな子供たちに呼びかけている。こんな時は、自然に触れる絶好の機会、春の野はいろんな虫が観察できるよ、虫が好きな子なら尚更、宝の山だよ、と。
作者は、無類の散歩好きで知られる。新たなルートを探して、遠方まで出かけることもあると聞く。散歩という一人吟行で詠んだ句をいくつも句帳に認め、時に仲間に披露することも。そういう日常の中で、生まれた句だ。いわば地に足が着いた一句で、時事句と見せて色褪せない作品だ。
(双 20.04.19.)