災厄に清々しきは若桜 大沢 反平
災厄に清々しきは若桜 大沢 反平
『この一句』
「若桜」は「花」の傍題で、若い桜の木、または数輪の花をつけた若木の桜の初々しさを愛でる季語である。若い桜木はひょろひょろと棒のような幹に細い枝が数本生えて、そこにまばらに花咲かせている。それは、花見で仰ぎ見る豪華絢爛たる桜樹とは比べようも無い、まことに頼りない姿である。
公園や街路樹として植えられるのは挿し木で育てられた五年生から七、八年生の若木。幹の太さは公園の鉄棒くらいだが、赤紫の木肌を輝かせ、「さあこれから思いきり伸びるぞ」と枝を伸ばしている。作者はそこに凛とした強さを感じ、健気に花咲かせているところに強い印象を受けたのだ。「災厄に」とは言うまでも無く、コロナ禍で一億総蟄居を余儀なくされた状況である。
「若桜」という季語は昔からあるのだが、滅多に詠まれない。歳時記に載ってはいるが、例句が無い。たまに詠まれることがあっても、それは今年初めて見た早咲きの桜などと、つまりは「初桜」の言い換えが多い。この句は、若木が初めて花を咲かせ溌剌たるところを見せていると、「若桜」という季語の本意をしっかり捉えた、今後末永くお手本となる句である。
(水 20.04.30.)