静まりし放課後の庭暮れかぬる 和泉田 守
静まりし放課後の庭暮れかぬる 和泉田 守
『おかめはちもく』
季語は「暮れかぬる」である。「遅日」の傍題として「暮遅し」などと並んでいる。春になって日が伸び、「春日遅々として暮れかねること」(角川歳時記)を意味する。掲句は放課後の校庭に子供たちの姿がなく、静まり返っている様子を詠む。普段ならクラブ活動や友達と遊ぶ子供らでにぎわっている校庭が、なぜか誰もおらず、声も聞こえない。日暮れが遅くなり、まだ時間も日差しもたっぷり残っているだけに、かえって淋しさが募る。
評者は、新型コロナウイルス対策で急きょ実施された一斉休校を詠んだ句と見た。時事用語を使わずに、子供たちの姿が消えた校庭を描写し、遅々として暮れない春の日のもの悲しさを重ねる。時事句と声高に主張せずに、ソフトに世相を詠んだ句と思い、迷わず票を入れた。
ところが句会では評者以外の点は入らなかった。「放課後の庭」の表現から、生徒が皆下校した校庭を詠んだと見られたのであろう。「休校の庭」とか「無人校庭」とかの言葉を使った方が、句意が明確になったのかも知れない。
(迷 20.03.31.)