母校失せ友失せし里ねこやなぎ  金田 青水

母校失せ友失せし里ねこやなぎ  金田 青水 『この一句』  「母校失せ」「友失せし里」の上五中七は哀しい。作者の生まれ故郷だろう。春近い一日、帰郷してみたが懐かしい母校はもうない。人口減少で統廃校になったのか、作者の通いなれた思い出の場所に見ることはできない。古稀をいくつも過ぎた作者の同級生も、指を折れば何人かはこの世の人ではない。おそらく昔の繁栄ぶりも消えた商店街。ないない尽くしの故郷だが、景色だけは昔と変わらないと言うのだろう。なにやら漢詩の世界を思わせる句でもある。  この句の真骨頂は、上五中七のネガティブな心情を、下五の「ねこやなぎ」で鮮やかに逆転させたところにあると言いたい。ねこやなぎは春の訪れを告げる川辺の風物詩であり、なにより犬猫の和毛(にこげ)のような快いフワフワ感を感じさせるものだ。このさき穂が開いて葉を形づくるという成長性があるのもいい。前向きで愛くるしい季語「ねこやなぎ」の持つ効能を十二分に発揮させた。句会では都会育ちの出席者の心にも響き、満遍なく票を集めたのはうなずける。(葉 20.02.26.)

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