鳥雲にサーカスの子ら転校す   谷川 水馬

鳥雲にサーカスの子ら転校す   谷川 水馬 『この一句』  サーカスの子は親の仕事の都合で短期間で転校を余儀なくされる。テレビのドキュメンタリー番組でその光景を見たことがある。取材現場が大阪南部の言葉も気性も荒い土地だったので、さぞかし苦労するんだろうなと思って見た。ところが、実際にはサーカスの子の順応性が非常に高く、明るく前向きにクラスに溶け込んでいて、「僕は日本で一番友達の多い小学生」のような発言をしていた。一方、地元の子の方はおずおずとサーカスの子に近づき、転校で別れる時はより感傷的だったような記憶がある。頻繁な転校はもちろん本人にとっては大きな負担だろうが、親の仕事をちゃんと理解して、それをポジティブな機会に転化する子供の知恵や明るさに教えられるところが多々あった。  掲句は、それやこれやを「サーカスの子ら転校す」とさらっと詠んで、何がどうしたなどの説明を一切していない。その分、読み手の心の中にいろいろなドラマを生んでくれる。実は筆者は選評で「鳥雲」と「転校」の取合せは「付き過ぎ」と指摘したのだが、この句は「鳥雲」の季語によって、作者の心情表現が完結する句なのだと改めて感じた。前言撤回である。 (可 20.02.19.)

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