庭先にすみれ咲く日のうれしさよ 高井百子
庭先にすみれ咲く日のうれしさよ 高井百子
『季のことば』
菫(すみれ)は日本古来の野草。「菫程な小さき人に生まれたし」と夏目漱石が詠んだように、小粒で可愛らしい。本州中部では3月から4月、地際の葉の真ん中から五センチ足らずの細い茎を伸ばし、先端に一センチほどの紫色の花を俯き加減に咲かせる。松尾芭蕉はこれを「山路来て何やらゆかしすみれ草」と詠んだ。まさに、小さくて見過ごしてしまいそうだが、意外と存在感を示す。
一方、同じ属にパンジー(三色菫)という園芸品種がある。これは野生のヴィオラをイギリス人が紫・白・黄色の大型の三色花を咲かせるように改良したもので、幕末に日本にもたらされ、わが国でも大いに持て囃されている。しかしこれは俳句で言う「菫」とは全然違う。これを詠むのなら「パンジー」あるいは「三色菫」とすべきである。雰囲気の全く異なる、別の季語なのである。職業俳人ですらこれをごっちゃにして「菫」と詠んでしまうのが何とも情け無い。
この句は「うれしさよ」と言い切ったところが、効果を発揮している。庭の片隅に、今年もしっかり芽生えて花を咲かせてくれた。それを見つけた嬉しさが迸り出ている。
(水 20.02.18.)