億劫を押し退け出れば風光る   山口斗詩子

億劫を押し退け出れば風光る   山口斗詩子 『季のことば』  うららかな春の陽射しに万物がまばゆく眩しい感じになる様子を「風光る」と言い、初春から晩春を通しての「三春の季語」となっている。この「風」は、もちろん明るく柔らかな春風も指しているのだが、「風景」「風体」「風情」などと用いられるように、「様子、なりゆき」を意味する「風」の意味合いが多分にある。言ってみれば「春の気分」である。  というわけで「風光る」は二月初めの立春頃のまだ肌寒いけれども「風はなんとなく春の感じ」という時期にも使われ、桜花爛漫の晩春の「眠くなるような気分」にも使われる。つまり、取り合わせるモノによって雰囲気が随分変わる、賞味期限の長い季語である。  この句の「風光る」は言うまでもなく早春。寒い寒いと縮こまっている二月である。えいやっと思い切って外へ出たら、陽光燦々、実に気持がいい。いままで「億劫」という化け物に掴まっていたんだ、それを押し退けたら、こんなに気持の良い世界が開けたと、晴々と背伸びしている。これも元気な中高年オバサマの句である。 (水 20.02.10.)

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