土手道に瀬音聞こゆる春隣    中村 迷哲

土手道に瀬音聞こゆる春隣    中村 迷哲 『季のことば』  「もうすぐ春だ」という気分がしみじみと伝わって来る、実にいい句だと思う。  この土手道はかなり高くて、流れは下の方にあるのだろう。石垣とか、岸辺の枯れ残った茂みなどに遮られて、流れそのものは見えにくくなっているが、小川の流れる音は聞こえる。うらうらとした陽射しの中、瀬音が軽やかに聞こえる。「春隣」という季語の雰囲気を実に上手く伝えているなあと感じ入った。  「はるどなり」という季語は「春近し」の傍題とされており、同じような意味合いに解釈されている。しかし、「隣」にまで来ていると言うのである。「近し」よりずっと切迫感が強い。春はもう直ぐ其処、手が届く所に来ていますよという“わくわく感”に溢れている。  それだけに季語としては賞味期限が非常に短いものとも言える。立春の前、せいぜい一週間というところだろうか。それはつまり、最も寒さの厳しい大寒の最中である。襟を掻き合わせながら、待ちかねた春を感じ取る。土手道に春を告げる瀬音を聞くというのが、それを遺憾なく表している。 (水 20.02.05.)

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