冴ゆる夜や満天の星怖きほど 井上庄一郎
冴ゆる夜や満天の星怖きほど 井上庄一郎
『この一句』
山を愛する作者を思えば、この句はどこか名峰での体験ではないだろうか。冴え冴えとした冬の夜は殊に空気が澄み切って、星がまさに手が届くほど近くに感じられる。登り終え、山小屋に着いた後は疲れも相まって早々と眠りに落ちたが、ふと目覚めて外に出てみたら、見渡す限り満天の星。壮大な宇宙空間の中のちっぽけな自分を認め、思わず身震いするほどの畏怖の念を抱いた。というような情景を「冴ゆる夜」に託した、とてもロマンチックな句だ。
筆者にも似たような経験がある。ヨーロッパの田舎町での夜だった。新月だったのだろう。粒の大きな星が降り注ぐようにひしめき合っていた。怖くて怖くてなるべく星空を見ないように、下ばかり見ていた記憶がある。
真の闇の中で見る濃厚な星空を怖いと感じる人は結構いるようで、この句は共感する人が多かった。夜空が明るい都会では満天の星は望むべくもないが、宇宙に広がる星々は、本当は怖いほど美しいのだということを、改めて思い出させてくれる一句だ。
(双 20.02.02.)