鳥来るを待つ千両のつぶらかな 水口 弥生
鳥来るを待つ千両のつぶらかな 水口 弥生
『この一句』
冬季に熟す赤い実が珍重される千両、常緑の小低木である。花が絶え色彩を失った庭園のアクセントに、正月飾りの花瓶に欠かせない役者として珍重される。
この句の際立つ措辞は「鳥来るを待つ」であろう。庭師は鳥が来て千両に群がるのを嫌う。「実千両」を食べつくすからだ。その鳥を待つと置いた作者の意図を考えた。もちろん赤い実を鳥に食べさせたい気持ちなどあるはずがない、と思う。しかし、待てよ、心優しい作者のことだから、もしかしたら食べ尽くされてもいいや、という気分なのかも知れない。どちらか確定はできないが、とにかくこの実を早く鳥たちにも見せてやりたい、「みせたがり」の気持を込めたものにちがいない。
千両になり代わって「鳥を待つ」と言い放ったことにより、「実千両」を強調する効果を発揮した。「つぶら」という柔らかな表現で円い実を飾ってもいる。五七五の十七音、一気に読ませるリズム感も心地良い。地味で静かな詠み方だが、いかにも新年句会にふさわしい一句だった。
(て 20.01.24.)