枯むぐら除けるや蕗の薹二つ 大澤 水牛
枯むぐら除けるや蕗の薹二つ 大澤 水牛
『この一句』
この句は「季重なり」の句である。俳句は一般的には「季重なり」を嫌い、仮に使う場合でも複数の季語の軽重をはっきりさせることを求める。季語の力を殺ぐなという戒めだろう。
この句の季語、ひとつは「枯むぐら」で冬の季語、もうひとつは「蕗の薹」で初春の季語である。「季重なり」であることに加えて、異なる季節の季語を重ねた句である。しかもその二つの季語をうまく使い分け、季節の移り変わりを大変効果的に表現している。一句は、冬を「除けるや」春がそこに芽生えていた、という発見の喜びを伝える句に仕上がっている。これは意図して「季重なり」で詠んだ、手練れの作者の句に違いないと確信した。作者が判明してなるほどと思った。
この光景は作者が自分の家の庭で実際に経験したことらしい。いつもの年ならまだ芽生えてないはずの蕗の薹が、暖冬のせいで芽を出していて驚いたのがもとになっているという。この発見が、環境変動に伴う異常気象がもたらしたものだとすれば、単純に喜んでいる場合ではないのかもしれない。しかし、それは人の罪であって、蕗の薹の罪ではない。ひとまずは素直に、この美しい句を味わいたい。
(可 20.01.21.)