スタートの号砲間近淑気満つ 向井 ゆり
スタートの号砲間近淑気満つ 向井 ゆり
『季のことば』
淑気(しゅくき)は、角川歳時記によれば「新年の天地に満ちる清らかで厳かな気」を意味する季語。俳句以外ではまず目にしない。例句には山や海の景を取り合わせたものや神社で詠んだものが多い。これに対し掲句は、正月の駅伝風景に淑気をぶつけている。
正月に号砲の鳴るスポーツは駅伝しかない。実業団のニューイヤー駅伝も考えられるが、ここは二日朝に大手町をスタートする大学生の箱根駅伝と解したい。各校の第一走者が母校の襷を胸にスタートの号砲を待つ。その一瞬の静寂と緊張感が、季語の淑気とマッチしている。
新年の初句会では駅伝を詠んだ句が掲句を含め4句もあり、いずれも兼題の淑気と取り合わせていた。箱根駅伝は全国的に人気が高く、正月スポーツの定番となっている。お屠蘇気分の抜けない二日、三日に沿道やテレビの前で、若き学生が懸命に走り、襷をつなぐ姿を見る。「ああ、正月だなー」と思う気持ちが、淑気を呼び寄せているのであろう。
(迷 20.01.20.)