ごまめ煎る気長な妻のありがたき  工藤静舟

ごまめ煎る気長な妻のありがたき  工藤静舟 『この一句』  何とも羨ましい夫婦――この句を目にしたときの感想が、これだった。従って、迷わず頂戴した。初句会でのことである。想像するに、年末、奥様が台所で田作を作ろうとして、ごまめを煎っているのだろう。煎った後、醤油に砂糖、味醂をあわせた甘辛い汁を絡めれば、お節料理の一品が出来上がる。すでに金柑の甘煮なども用意され…。  「羨ましい」と思ったのは、妻に素直に「ありがたき」と思えること、さらに、それを句に仕立て、他人に言える姿勢、生き方である。かつての日本男児云々はともかく、現代の若い男性でも、妻に対する感謝の気持ちを、こんなに素直に口に出せるものではあるまい。それを外連味なく言いおおせる所に、愛情の深さが感じられる。  句会では、酒豪の男性が「ごまめを煎るのは自分の役割」と言えば、「煎ったばかりの香ばしいごまめは酒の肴にぴったり」など、しばし談論風発。最後に作者が「毎年、飲み会に煎ったごまめを持って来る人がいて…」と、照れ隠しのような逃げを打ったが、その言葉は句座の面々の耳に残ったかどうか。 (光 20.01.19.)

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