角巻や母の背に出す赤ほっぺ   工藤 静舟

角巻や母の背に出す赤ほっぺ   工藤 静舟 『季のことば』  「角巻(かくまき)」は、雪国特有の女性用の防寒着。簡単に説明すると四角い毛布を三角形になるように二つ折りし、その長辺をすっぽり頭から被って風雪から身を守る。赤子を背負い、ねんねこ代わりに使うこともあるという。「どてら」や「ちゃんちゃんこ」などと同じで、ダウンコートを纏った今の若い人には縁のない防寒用品だ。もっとも九州出身の筆者も実は角巻は馴染みがない。昔の写真集や映画などの映像でなんとなく見た事がある程度だ。今はもうあまり見かけないのかと思ったら、青森では角巻の文化を残し冬の観光資源の一つにしようと、「デザイン角巻」という現代風にアレンジした新作を毎年発表しているという。  青森出身の作者には、角巻は昔懐かしい原風景なのだろう。厳冬期が過ぎ、いくらか寒さが緩んだころ、母におんぶされた幼子が角巻から笑顔を出している景色が目に浮かぶ。筆者もそうだが、この句を採った人は角巻をよくは知らなくても、作者の郷愁の気持ちが心に響いたのだと思う。句の「赤ほっぺ」の子は作者自身かもしれない。その子の瞳には、きっと岩木山が映っているに違いない。 (双 20.01.08.)

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