命名の筆の硬さよ初硯 高井 百子
命名の筆の硬さよ初硯 高井 百子
『季のことば』
初硯(はつすずり)は、歳時記によれば「正月になって初めて硯で墨をすること、またその墨で字を書くこと」。書初と同様に新年の季語だが、書初が書く行為や書いた字を詠んだ句の多いのに対し、初硯は「病床に膝揃へけり初硯 波郷」など硯に向かう心境や自然の営みを詠み込んだものが大半だ。
掲句は命名に臨む緊張感を、筆の硬さと、初硯の季語の静謐感に重ねている。今どきの親は、スマホやパソコンで名付け支援サイトにアクセスし、気軽にキラキラネームを付けていると聞く。命名に硯と筆を使うのは、やはり祖父母の世代であろう。
孫の健やかな成長を願って、硯に向かい墨を磨る。筆は命名用に新しく買ったのか穂先が硬い。「筆の硬さよ」の七文字から、孫の命名に対する真剣な思いと、喜びが伝わってくる。初硯の季語と響き合って、初春にふさわしい、誠にめでたい句である。
(迷 20.01.05.)