初夢やあの世この世を行き来して 片野涸魚
初夢やあの世この世を行き来して 片野涸魚
『季のことば』
「初夢」は元旦の夜から二日朝にかけて見る夢とする説と、二日夜に見る夢だとする説があるが、まああまりうるさいことは言わずに、三が日に見た夢とでもしておいた方が良さそうだ。
この句は酔吟会という句会の最長老が昨年の新年句会に出して高点を得たものである。初夢の句というと、一富士二鷹三茄子をはじめ、目出度さを前面に押し出したものが多い中で、これはあの世とこの世を往来したという、びっくりするような中身である。合評会では「ドキッとしますね」という声もあったが、とにかく人目を引く。さらに、「あの世ではご両親や先に逝った仲良したちと歓談し、此の世では孫たちと遊び、実に羨ましい」と口々に褒めそやされた。
しかし、つらつら思うに、これほど目出度い句も珍しい。富士山どころか、あの世を悠々と経巡って戻って来たというのだから、まさに仙人の境地である。ご本人は「いやいや、酔っぱらって朦朧として見る夢です」としきりに照れていたが、近来ますます脱俗の雰囲気を漂わすその姿に、一同あやかりたいとの思いを深めたのであった。
(水 20.01.01.)