冬夕焼けこの人生を肯定す 中嶋 阿猿
冬夕焼けこの人生を肯定す 中嶋 阿猿
『この一句』
こういう句を作るのは難しい。投句するのはもっと難しい。そんなふうに思った。
俳句で人生を語るのは特異ではないが、普通は何かの物や事に仮託し、真正面から「この人生」と詠むことは少ない。この句を散文を読むように意味をたどれば、きわめてポジティブな気持の表現と解釈することができ、ひとつ間違えば鼻持ちならない句と捉えられてしまう恐れもある。
「この人生を肯定す」ときっぱり言い切る大胆さに、むしろそこにいたる逡巡や、憂いのようなものを断ち切ろうとする心のありようを感じた。そうでも言い切らないと「やってられないわ」というような作者の気持を感じた。「冬夕焼け」で切れて、「この人生を肯定す」ときっぱり切る韻文の効果から、そういう句意を濃厚に感じた。また、そう解釈すると、「冬夕焼け」の季語が、いっそう鮮やかで美しいものに感じられる。
作者が女性だとわかって、「やっぱりなあ」と思った。こういうことを素直に表現するのは女性の方がはるかに得手である。男性にはなかなか作れないし、作っても投句する前に怖気づいてしまう気がする。すこし羨ましく思った。
(可 19.12.27.)