北風も仲間に入れて競技場 池村 実千代
北風も仲間に入れて競技場 池村 実千代
『この一句』
寒風の吹く競技場での熱戦を詠んだ句である。サッカーもあるが、「仲間に入れて」の絶妙な措辞から考えると、ラグビーの試合しかないだろう。鍛え上げた十五人が楕円のボールを先頭に突進する。迎撃のタックルから肉弾戦が展開され、体は湯気を発する。北風が心地よく感じられるほどだ。スタンドの観衆も体を揺すり、叫び、グランドの選手と一体化する。
「one for all(みんなのために)」というラグビーの本質を語る言葉がある。選手を観衆を、そして北風までも巻き込んで仲間にする。これほど一体化を実感するスポーツは他にないと思う。
作者は息子二人をラガーマンに育てた。真冬の競技場で何度も子供に声援を送ったであろう。「仲間に入れて」は、現場に身を置いた人だから詠める言葉で、競技場のどよめきまで聞こえて来るようだ。2019年秋のワールドカップで日本代表はベストエイトまで進み、日本中が熱狂した。あの活躍ぶり、一体感もよみがえってくる。
(迷 19.12.26.)