しぐるるや動物園の裏の道 横井 定利
しぐるるや動物園の裏の道 横井 定利
『この一句』
「時雨」の感じが実によく伝わって来るなあと、句会では一も二も無く採った。何がいいのかと言うと、動物園の裏道と「時雨」の取り合わせが何とも言えない味を出しているのだ。
上野動物園も、天王寺動物園でも、私の地元のささやかな野毛山動物園も、裏の道はまことに寂しい。動物が逃げたりしないように、片側をかなり高い塀が連なる淋しい道である。深夜は通る気にならない。夕闇迫る頃合い、時雨の降りかかる頃など、何とも言えない雰囲気である。自然に足を早めている。
動物園の裏道がどうしてこんなに寂しく、時に陰惨ともいうべき空気が漂うのだろう。上野動物園の裏道を歩きながら考えた。そして気が付いた。囚われの動物たちの呻きがここに澱のように溜まっているのだと。
私は動物園が大好きで、二ヵ月に一度は出かけている。そして小さな狸や狐からライオン、象などの大きな動物まで、飽かず眺め、元気を貰って帰って来る。しかし、そうして人間を楽しませてくれる彼らは、死ぬまで釈放されることのない無期懲役なのだ。
(水 19.12.25.)