踏ん切りのつかぬ帰郷や都鳥 廣田 可升
踏ん切りのつかぬ帰郷や都鳥 廣田 可升
『合評会から』(番町喜楽会)
青水 季語の「都鳥」を帰郷にうまく結びつけましたね。「百合鷗」だとこうはならない。
迷哲 日経新聞に連載中の「業平」の歌の本歌取りですね。我々田舎から出て来たサラリーマンの、なかなか故郷に帰れない思いをうまく表現しています。
満智 義務とわかっていても帰郷に気乗りしない心持ちを「踏ん切りのつかぬ」とうまく表現し、帰郷を「都鳥」とからめたところにも感心しました。
斗詩子 都会に長く暮らして定年を迎え、「故郷に帰ろうか、いやもう…」と逡巡する人は多いでしょうね。
可升(作者) 具体的には何もありませんが、夫婦で「大阪に帰らなくてもいいのかな」と話すことがあります。
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戦中派から団塊の世代の少し下まで、高度成長期に地方から東京や大阪に働きに出た人達にとって、「故郷は遠くにありて想うもの」どころか、家や墓の問題につながる、すこぶる気に懸かる存在になっている。そのあたりの心情をたくみに掬い取った佳句である。
(光 19.12.24.)