流木を中洲に残し冬千曲     堤 てる夫

流木を中洲に残し冬千曲     堤 てる夫 『この一句』  千曲川は、藤村の「千曲川旅情の歌」で知られ、四季折々の美しい佇まいが人気だ。しかし、名は体を表す。千ほど曲がりくねっていると言われるほどの暴れ川でもある。その川が先の台風19号による未曾有の大雨で氾濫し、多大な被害をもたらした。2ヶ月過ぎた今もその爪痕が残る。掲句は、その千曲川の今を切り取った時事句なのだが、台風禍以前の作だと言われても得心するほど抑制の効いた筆致だ。句会でも「災害の後は『哀れ』とか『痛々しい』とか言いたがるけど、実際の風景をさらっと詠んで上手いなぁ」と涸魚さんが評したように、冬ざれの大河の景を素直に詠んだ表現に共感する人が多かった。  長野県上田市に作者が居を移して久しい。作者の自宅前を走る別所線は千曲川に架かる鉄橋が濁流に橋脚をさらわれ崩落した。鉄橋部分を含む区間はバスで代行し、全面復旧は2021年春を目指しているそうだが、しばらくは不便を強いられそうだ。  この一句、惨禍を声高に言いつのるのではなく、ありのままの姿を淡々と詠んで心に沁みる。旅人の目にはない、地に足がついた生活者の眼差しが行間から滲み出ているからだろう。 (双 19.12.23.)

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