残業の母に飛び込む白き息 中村 迷哲
残業の母に飛び込む白き息 中村 迷哲
『おかめはちもく』
冬の寒さがつのる今日この頃。保育園に残業帰りの母親が迎えに来ている図と見える。残業帰りというのだから夜八時、九時過ぎかもしれない。辺りが暗くなっていても幼児の吐く白い息がくっきり。
保育園で保母さんになにくれとなくお世話をしてもらっても、母親の迎えは何物にも代えがたいものだ。朝、送ってくれた母親と離れがたく大泣きする幼児もいる。評者は孫を送って何度も見た光景である。大泣きの反動か、迎えの母親に喜びを爆発させているのだ。「飛び込む」という表現が切々と響く。
ほほえましく美しい情景の句として一票を投じた。句の出来と句会の得点は、必ずしもシンクロナイズする訳ではないことはよく分かっている。だが好ましい情景を詠んだ句なのに、座が大きく反応しなかったのは、「残業の母」に省略があったせいと思える。「残業の母に飛び込む」と言えば、残業中の母と取られかねない。ここは「残業終えし」と七音になってもいいと思うのだが。それにしても、働き方改革が行き渡り、残業なしの世が待たれる。
(葉 19.12.22.)