都鳥並びて傾ぎ氷川丸      谷川 水馬

都鳥並びて傾ぎ氷川丸      谷川 水馬 『この一句』  作者はぶらりと横浜港に出掛けた。山下公園添いに氷川丸が停泊していた。この著名な大型貨客船は六〇年も前に現役を退き、今は国の重要文化財に指定され、静かに余生を送っている。  作者はここに来るたびに氷川丸を眺めるのが常だが、この日は少々様子が違う。こちら側の手すりに都鳥(ユリカモメ)がびっしりと並んでいた。ふと気づく。氷川丸が手前に少し傾いているではないか。ユリカモメの重さで・・・、まさかね。いくらカモメが集まっても重量は知れたもの。一万トン級の巨船が鳥の重さで傾くわけがない。  作者はしかし、これをユリカモメの仕業として詠んだ。「あたかも~~のような」状態を事実風に詠むと、俳句に独特の面白さが生れてくる。「閑かさや岩にしみ入蝉の声」。蝉の声が岩にしみ込むわけはないのだが、この句は芭蕉がこう詠んで名句となった。 (恂 19.12.19.)

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