短日に早足の帰路襟たてて    久保 道子

短日に早足の帰路襟たてて    久保 道子 『おかめはちもく』  日が短くなると、誰しも急かされる気分を抱く。それを「早足で」「襟たてて」せかせかと家路に就くのだと、具体的な「動作」で詠んだ。これによって誰もが「ああそうだ」と頷く句になった。作者は今年9月に酔吟会句会を見学し、その場で入会、11月句会に初めてこの句を出した。俳句を始めたばかりの人の句とは思えない、ツボを心得たというか、きちんとした句である。  久保さんは「日頃の小さな感動を自分の言葉で俳句にしたい」と、会報の「自己紹介文」に綴っている。これこそ、俳句作りの原点である。見た物、感じた事を、借り物では無い自分の言葉で5・7・5にする。これが最も大切である。  と言うわけでこの句は、初心の作品としては申し分ないのだが、あえて言えば、下五に「襟たてて」が独立しているため、この句の主題である「短日の気ぜわしさ」より「日暮れの冷え込み」が強く印象づけられてしまう恐れがある。  ここは思い切って「短日の帰り道」を強く打ち出してはどうか。   (添削例) 短日の帰路は早足襟立てて (水 19.12.17.)

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