教皇の被爆地に立つ時雨傘 澤井 二堂
教皇の被爆地に立つ時雨傘 澤井 二堂
『この一句』
ローマ教皇フランシスコが広島、長崎の被爆地を訪れた。法王という政府、マスコミの呼称もこの機会に教皇と変わった。世界13億人のカトリックを統べる宗教者が来日したのは、1981年のヨハネ・パウロ2世以来のこと。今回、被爆地からキナ臭い国際情勢に対し平和を訴えるのが訪日の大きな目的だったという。
この句は広島平和祈念公園に立ちメッセージを読み上げる教皇を、なんの衒気も修飾もなく詠んだ句である。折からの冷たい時雨のなか傘を差しかけられていた教皇。それを見たまま句にしたものでありながら、「教皇」「被爆地」「時雨」と重ねることで、奥深く余韻のある時事句になったと思うのである。
時事句には旬と言おうか賞味期限があるものが多い。一年あるいは数年経ったら「はて?」という句もあるが、この句は後世に残る句ではないだろうか。教皇の平和メッセージは、世界のリーダーたちにどう響いたのか聞いてみたいものである。
(葉 19.12.13.)