大根煮る妻の笑顔や孫九人 篠田 義彦
大根煮る妻の笑顔や孫九人 篠田 義彦
『この一句』
読んでいると自然に頰がゆるんで来る、ほのぼのとした句だ。煮大根の味が分かるのはかなり年がいってからのことで、子供はあまり好まないものと相場が決まっているが、このオバアチャンの煮大根は格別なのだろう。もしかしたら孫たちには大根以外に何か狙いがあるのかも知れない。大きい孫から小さい孫までまつわりついている。オバアチャンは嬉しそうに相手しながら、てきぱきと炊事に勤しむ。
少し離れた居間か書斎で物を書いたり、本を読んだりしている作者にも、妻と孫たちの賑やかなお喋りが聞こえて来る。老夫婦二人だけだと、もう喋ることもあまり無くなって、いつの間にか妻の愚痴を聞かされることになってしまう。なだめたりすかしたりしているうちに、こちらもくさくさしてしまう。
というわけで、孫はうるさいし、物入りのタネでもあるのだが、不景気な空気の澱む家に明るさを持ち込んでくれる。「いい匂いがしてきた。そろそろ煮えたかな」と、重い腰をよっこらしょっと持ち上げる。
(水 19.12.12.)