冬桜鄙におしゃれな町役場    田中 白山

冬桜鄙におしゃれな町役場    田中 白山 『この一句』  11月中旬に千葉県の養老渓谷と大多喜城下を巡る吟行を催した。大多喜では着物姿の女性ガイドさんが、本多忠勝の築いた城下町の見どころを案内してくれた。掲句はそのひとつ大多喜町役場に立ち寄った時の作である。  昭和34年に建てられた町役場は建築家・今井兼次の設計で、日本建築学会賞やユネスコのアジア遺産賞を受賞している。コンクリート打ちっぱなしの壁と大判ガラスのモダンな外観が、旧家の並ぶ城下町に意外に調和している。「鄙におしゃれな」という措辞が絶妙で、その佇まいをわずか七文字で伝える。  取り合わせる季語は、役場の門近くに咲いていた冬桜。小春日和に誘われたように咲いた可憐な白い花が庁舎に映えていた。吟行の印象的な場面を巧みに詠んだこの句は、同行者の点を集めたが、大多喜を知らない人でも、のんびりとした町とモダンな庁舎が浮かんでくるのではなかろうか。 (迷 19.12.09.)

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