切干や昔の母は子沢山 今泉 而云
切干や昔の母は子沢山 今泉 而云
『季のことば』
沢庵、納豆、塩鮭などは食卓になじみ深い食品で年中手に入るので、いずれも冬の季語といわれると驚く。切干大根はどうだろう。そういえば、真夏はあまり食べた記憶がない。我が家の食卓にも寒くなった最近はよく出てくる。大根が冬の季語なので、干した切干もやはり冬かと納得する程度の自己主張の薄い食べ物だ。しかし、便利な保存食で廉価なため台所では人気者。素朴な味わいには得難いものがある。
「お袋の味」との連想もあり、切干と母は相性がいいようで、句会でも母の句が散見された。中でも掲句に人気が集まったのは、中七下五の熟語のような措辞が心に響いたのだろう。「昔の母は子沢山」、確かにそうだなあ。昔は兄弟も多く大家族だったな。誰しも思い当たる節があり、納得する。厚生労働省によると、戦後まもない1949年に生まれた子供はざっと270万人。ところが、2018年は約92万人にまで減ったそうだ。
今年も賀状欠礼の葉書が届く季節になった。どれも同じように「母が九十半ばで永眠」と記されていた。
(双 19.12.02.)