一合の米を炊く日や木の葉髪 植村 博明
一合の米を炊く日や木の葉髪 植村 博明
『季のことば』
木の葉髪とは「木の葉が散るように抜ける髪の毛、さらには抜け毛が多くなって薄くなった頭のこと」(水牛歳時記)。抜け毛が落葉とともに意識されることから、初冬の季語となる。ちょっとユーモラスで、物悲しさを感じさせる季語である。
苦労で若くして髪が抜けることもあるが、木の葉髪を意識するのは、やはり年寄である。平均年齢の高い日経俳句会だけに、この兼題に対し自分の頭髪と来し方を振り返る句が並んだ。
掲句は「一合の米を炊く」わが身を詠む。育ち盛りの子供がいた頃は毎日一升近く炊いていたが、夫婦二人になったら二合がせいぜい。妻に先立たれた身では日に一合で間に合う。そんな変化が読み取れる。
「炊く日や」との詠嘆からは、そんな日が来るとは思っていなかった作者の、現実を受け止め独り暮しに慣れようとする姿が浮かんでくる。木の葉髪の季語と作者の思いが響き合い、しみじみとした哀感が募る。
(迷 19.11.25.)